和歌

斎藤茂吉 「遠洋」 ベルリン

見わたしの畑に雪降りかぎりには黒くつづける常盤木の森 ドウナウの流れの寒さ一面に雪を浮べて流るるその音

昭和天皇

雑草という草はない

藤原道綱母

うへしたとこがるることをたづぬれば胸のほかには鵜舟なりけり

島木赤彦

月の下の光さびしみ踊り子のからだくるりとまはりけるかも ひたぶるに我をみたまふ顔より涎を垂らしたまふ尊さ

ルンバ

嫁われを娘と呼びし姑のごと在りたしと誓ふ子の婚の日に 沢田美代子 中世和歌集のカーボンを破る

金槐和歌集  源実朝

葛城や高間の山の時鳥雲居のよそに鳴きわたるなり 126 あしびきの山時鳥深山出でて夜ぶかき月の影に鳴くなり 127 夏はただ今宵ばかりと思ひ寝の夢路にすずし秋の初風 154 山高み明けはなれゆく横雲のたえまに見ゆる峰の白雪

川上澄生

山雀が郵便受けに卵六つ生みて三つは孵らざりけり

本居宣長

敷島の大和心を人問はば朝日に匂ふ山桜花

比良八荒

比良八荒漕ぎゆく舟の水脈白し 比良八荒漕ぎゆく舟の跡白し (新古今 145) 花さそふなごりを雲に吹きとめてしばしはにほへ春の山風 藤原雅経

海峡を帆船とほる雁供養 海峡に帆柱高し雁供養 秋風に声をほにあげて来る舟は天の門(あまのと)わたる雁にぞありける 藤原管根 古今集 第四・212

新万葉集

張り裂くる胸いつぱいの涙なりやさしき言はのたまふなゆめ 神谷昌枝 順礼の子を呼び止めてものめぐむ人もありけり秋のゆうぐれ 落合直文 逢ひぬれば母と呼ぶべき父の妻なさけ籠りしことを宣(の)らしぬ 神沢弘 諦めよあきらめよと母がいふこゑを血を吐きな…

新万葉集

大連の駅に今日降る春の雨かなしきことは言はで別れむ 奥山秋歩 勤め遅く帰りし我を声立てて喜ぶまでに子は生ひ立ちぬ 冠木富美 ものいふと見交す目さへおのづから笑みとなりゆくうれしさにをり 加藤杉枝 父となり子となりて相抱きつつしづかに夜をねむるた…

菊池陽

散りぎわが美しいとは自分ではないから言えるのだよねえサクラ

故郷の風のふくらむ干瓢干す 毛の国はわが故郷よ乙女らの乳房のごとき干瓢を干す 干瓢を干すや乙女の白妙の乳房のごとく風をはらみて

どれにも日本が正しくて夕刊がばたばたたたまれてゆく 栗林一石路 どのみちも雪道となり暮れゆくや 棟方志功 頸ほそき坑夫あゆみくるそのうしろ闇にうごきゐる沼とおもへり 石牟礼道子 われはもよ 不知火をとめ この浜に いのち火焚きて 消えつつまた燃へつ …

くどうれいん

雪の上にまた雪が降る東北といふ一枚の大きな葉書

吾子の頭(づ)とぶつかりうずくまるわれの頭を吾子の撫でにけるかも

水底の玉さへさやに見つべくも照る月夜かも夜の更けゆけば 詠み人知らず(巻7・1082) 水底の玉照る二十三夜月 瀬を早みゐで越す波の音さやか 水霧らふ沖つ小島に風をいたみ舟寄せかねつ心は思へど 詠み人知らず(巻7/1401)

万葉集 巻第五 令和

時に、初春の令月にして、気淑く風和ぐ。梅は鏡前の紛を披く、蘭は珮後の香を薫らす。しかのみにあらず、曙の嶺に雲移り、松は羅を掛けて絹傘を傾く、夕の岫に霧結び、鳥はうすものに封ぢらえて林に迷ふ。庭には舞う新蝶あり、空には帰る故雁あり。 折しも、…

松の葉に月はゆつりぬ黄葉葉の過ぐれや君が逢はぬ夜の多き 池辺王(巻4・623)

松の葉越に月は渡っていくし、おいでをまったあげくにいつしか月も変わってしまった。まさかあのh世へいったわけでもあるまいのに、あなたの逢いに来ぬ夜が重なること、かさなること。 松の葉を月渡りゆく神無月 松の葉を月渡りゆく初冬かな 松の葉を月渡り…

蘆辺より満ち来る潮のいや増しに思へか君が忘れかねつる 山口女王(巻4/617)

葦原のあたりを満ちて来る潮のように、君を思う気持ちがひたひたと心の底に募るせいか、あのお方のことが忘れようにも忘れられない 葦原を満ち来る潮や夏旺ん

俳句歳時記 冬 第五版 時候

淵なれば散りて流れずもみぢ葉のふちの底ひに朽ちて沈めり 生方たつえ 子持嶺の岩山かげゆ取りて来し松藤入れて風呂立てにけり 倉沢誠一郎 冬 聖堂の木の香奪はれつつ冬へ 広瀬直人 初冬 初冬の木をのぼりゆく水のかげ 長谷川双魚 水に靄動きはじめて初冬か…

高座の御笠の山に鳴く鳥の止めば継がるる恋もするかも 山部赤人(巻3・373)

高座の(枕詞)御笠の山に鳴く鳥が鳴き止んだかと思うとすぐまた鳴きだすように、抑えたかと思ってもすぐまた燃え上がる切ない恋を私はしている。 春日野に登りて作る歌。

縄の浦に塩焼く煙夕されば行き過ぎかねて山にたなびく 日置少老(巻3・354)

夕凪や塩焼く煙たなびける 夕凪の瀬戸の塩焼く煙かな 夕凪の入り江塩焼く煙かな 夕凪の瀬戸に塩焼く煙立つ 藻塩焼く煙たなびく土用凪

みもろの 神なび山に 五百枝(いほへ)さし 繁(しじ)に生ひたる 栂の木の いや継ぎ継ぎに 玉葛(たまかずら) 絶ゆることなく ありつつも やまず通はむ 明日香の 古き都は 山高み 川とほしろし 春の日は 山し見が欲し 秋の夜は 川しさやけし 朝雲に 鶴(た…

さざれ波磯越道なる能登瀬川音のさやけさたぎつ瀬ごとに 波多朝臣小足(巻3/314)

小波(さざなみ)が川岸の岩を越すというではないが、越の国へ行く道の能登瀬川、この川の音のなんとさやかなことよ。激ち流れる川瀬ごとに。 激つ瀬に岩打つ波のさやけしや

燃ゆる火も取りて包みて袋には入ると言はずやも智男雲 持統天皇(巻2:160)

嬬恋の草凪ぎわたる焚火かな

鯨魚取り 近江の海を 沖放(さ)けて 漕ぎ来る船 辺(へ)付きて 漕ぎ来る船 沖つ櫂 いたくな撥ねそ 辺つ櫂 いたくな撥ねそ 若草の 夫の 思ふ鳥立つ 倭大后(巻2・153) 若草や近江の海を鳥翔り

橘の蔭踏む道の八叉に物をぞ思ふ妹に逢はずして 三方沙弥(巻2/125)

橘の木蔭踏みゆく去来の忌 橘の木蔭踏みゆく西鶴忌 橘の木蔭踏みゆく宗祇の忌

在り嶺よし対馬の渡り海中に幣取り向けて早帰り来ね 

在り嶺よし対馬は碧き月宿す 在り嶺よし対馬を春の霙かな