冬の雁
冬の雁くろがねの空残しけり 伊藤通明
冬の鵙
冬鵙のゆるやかに尾をふれるのみ 飯田蛇笏
冬の鶯
叢雲は日を抱き藪は笹子抱く 檜紀代
寒鴉
動かんとするもの圧さへ寒鴉 依田善朗
鷦鷯
水べりの樹間あかるし三十三才 福谷俊子
鴨
日のあたるところがほぐれ鴨の陣 飴山實
都鳥
寄るよりも散る華やぎの都鳥 石鍋みさ代
かよひ路のわが橋いくつ都鳥 黒田杏子
百合鴎よりあはうみの雫せり 対中いづみ
冬鷗
沖荒るる日の揚げ舟に冬かもめ 鈴木しげを
ポケットに拳の熱し冬鷗 山下知津子
鶴
鶴啼くやわが身のこゑと思ふまで 鍵和田柚子
白鳥
ふぶくごとくに白鳥のもどりくる 中岡毅雄
鮪
大鮪ひと蹴りで糶り落としたり 千田一路
鱈
鱈船に海盛りあがる日の出かな 岸孝信
鰤
寒鰤は虹一筋を身にかざる 山口青邨
日の柱立つ寒鰤の定置網 神蔵器
金目鯛
金目鯛水を惜しまず糶られけり 川崎清明
鮟鱇
一喝に似て鮟鱇を糶りおとす 今瀬剛一
湖の青氷下魚の穴にきはまりぬ 齋藤玄
うすうすと火の香したたる氷下魚釣 大石悦子
柳葉魚
一湾の光束ねて柳葉魚干す 南たい子
鮃
真黒に濡れたるいろに寒鮃 今井杏太郎
河豚
河豚の皿赤絵の透きて運ばるる 内藤吐天
河豚を喰ふ顔をひと撫でしたりけり 岡本高明
寒鯉
寒鯉の居るといふなる水蒼し 前田普羅
寒鯉に力満ちきて動かざる 中嶋秀子
魦
魦網雲のごとくに干されたり 加藤三七子
寒蜆
火柱のごとき没日や寒蜆 中岡毅雄
蟷螂枯る
蟷螂の風喰ふほどに枯れにけり 石蔦岳
凍蝶
ひと揺れの後凍蝶となりにけり 立村霜衣
冬の蜂
冬蜂の胸に手足を集め死す 野見山朱鳥
冬の虫
火と水のいろ濃くなりて冬の虫 長谷川双魚