万葉集 巻第五 令和

時に、初春の令月にして、気淑く風和ぐ。梅は鏡前の紛を披く、蘭は珮後の香を薫らす。しかのみにあらず、曙の嶺に雲移り、松は羅を掛けて絹傘を傾く、夕の岫に霧結び、鳥はうすものに封ぢらえて林に迷ふ。庭には舞う新蝶あり、空には帰る故雁あり。

 

折しも、初春の佳き月で、気は清く澄みわたり風はやわらかに風はやわらかにそよいでいる。梅は佳人の鏡前の白粉のように咲いているし、蘭は貴人の飾り袋の香のように匂っている。そればかりか、明け方の峰には雲が往き来して、松は雲の薄絹をまとって蓋をさしかけたようであり、夕方の山洞には霧が沸き起こり、鳥は霧の帳に閉じ込められながら林に飛び交うている。庭には春生まれた蝶がひらひら舞い、空には秋来た雁が帰っていく。