千手和子を悼む


櫛一枚青葉の旅の形見とす *1

遠山に雲湧きつげり初幟
千人に千の家待つ夕ざくら
林檎煮て玻璃戸曇らす春の雪
光なき月野に上げて西行
花冷や常着繕ふ膝の上 
眠るまで落葉焚きし香身にまとふ 
校倉の影伸びて来ぬ雪蛍 
雲ひとつ乗せて二日の富士霞む
動くものまだなき百合の夜明けなり
月の坂誰もひとりの影を引き
栗剥いて夫遠しとも近しとも
鉦叩目瞑れば野の闇さ見ゆ
貝殻がこぼす白砂冬ぬくし
海坂の紺極まりぬ実朝忌
天地は未明の静寂大櫻
全集に読まぬ巻ある曝書かな

*1:絶筆