萩原朔太郎 『月に吠える』より「愛憐」 また、「春の感情」

愛隣 

きつと可愛いかたい歯で、

草のみどりをかみしめる女よ、

女よ、

このうす青い草のいんきで、

まんべんなくお前の顔をいろどつて、

おまへの情欲をたかぶらしめ、

しげる草むらでこつそりあそばう、

みたまへ、

ここにはつりがね草がくびをふり、

あそこではりんだうの手がしなしなと動いてゐる、

ああわたしはしつかりとお前の乳房を抱きしめる、

お前はお前で力いつぱいに私のからだを押へつける、

さうしてこの人気のない野原の中で、

わたしたちは蛇のやうなあそびをしやう、

ああ私は私できりきりお前を可愛がつてやり、

おまえへの美しい皮膚の上に、青い草の葉の汁をぬりつけてやる。

春の感情

春が来るときのよろこびは、あらゆるひとのいのちをふきならす笛のひびきのやうだ