角川書店 俳句 2017 11

手いっぱい
抜井諒一
もう草と呼べざる丈の夏野原
滝を見る人の大きな手振りかな
手花火をいたはるやうに屈みたる
団栗の二つで子の手いつぱいに
ゲレンデを残して山のよそおへる
体より寒さ抜けゆくとき眠し
風花の止みてどこにも無かりけり
頸動
山本肯三
貰はれてゆく犬吠えず春の月
夏痩やだんだん離れゆく目と目
水面なる羽の頸動十三夜

掛井広道
蜂がくる火の起きそうな音のして
黒子にも手穴ある憂さ桜の夜
霜夜なり風呂の盖巻くは母
巡りても
朗全千津
初鴉門なき家の門前に
柳に日風呂に行きたくなりにけり
西瓜浮き鯉沈みをり山の池
油小路御池下ると時雨けり
短夜の髪は枕に拡がりぬ
タンブル青
中山幸枝
夜濯の衿ずたずたの柔道着
猪を捌き終へたる口漱ぐ
樹の役の走り出てくる聖夜劇
泳ごうか
柏倉健介
トラックの太きワイパー夏来る
時刻表手書きの港南風吹く
扇風機旧式刺身定食来
テーブルで剥く梨二人でも家族
小春日やナンひろびろと卓の上
床きゅっと踏んで会議や花の昼
大蝙蝠ねっとりと枝掴みけり
割印に割れたる名字十二月
白多し
滝川直弘
細密の苔に眠れる通し鴨
木耳の透けて神経らしきもの
川蝉を見つけて手話の早きこと
ビーカーにマスカット盛る理科教師
クリスマス魚臭き手と乗り合はす
ロープウェイの影
古川朋子
いちめんに詰み残したる土筆かな
それぞれに何かを終へし麦酒かな
墓参をへて写真にをさまれり
初風を聞きしづかなる潮だまり
手をあてて波璃のむかうはえいの腹
道端
黒澤あき緒
卒業証書もてタクシーを呼止むる
紅梅や猫をあつめて寺男
夜回のいつでも後姿なり
イヤーマフしたるうさぎのここちかな
新しき扉
なめらかな木彫りの匙や春隣
永き日のナウマン象の牙の反り
進化図の枝先の我梅三分
売り主と買い主の印冴返る
段ボールの端のギザギザ暮遅し
卓と椅子組み立てる螺子春の宵
筍山隔て小学校二つ
陸封
鈴木牛後
初蝶は音なく猫に食はれけり
芋虫踏む破裂音われに摩擦音
鬼灯や人の死に村若がへる
秋蝶あかるしトラックの下を出て
雪晴や北を指す手の真直ぐなる