平成24年度司法試験 環境法 成績 及び 再現答案

環境法  57.47点(44位=620位相当、上位11.67%)

 

第1問

第1 設問1

  1. (1)について

XはAに対して、国家賠償法(以下法名略)1条1項に基づき、

損害賠償請求することができる。同条項における「公権力の行使」とは、純然たる私経済作用及び2条における営造物の設置・管理の作用以外の全ての作用をいうところ、公有水面埋立法4条1項に基づく埋立工事の竣工はこの作用にあたるからである。

  1. (2)について
  2. (1)ア まず、Aとしては、Xの主張する景観は法的保護に値しない利益である、仮に、景観自体が法的保護の対象となる利益としても、X自身はその利益を享受する主体ではない、と反論する。

     イ しかし、景観は、良好な風景として人々の歴史的又は文化的環境を形作り、それが豊かな生活環境を構成する場合には、客観的価値を有する。客観的価値を有する良好な景観に近接する地域内に居住し、その恵沢を日常的に享受している者は、

   法律上保護に値する利益を享受する主体といえると解する。

    本件において、A県B町の海岸からは、中世からの港湾設備群や神社等の歴史的建造物が立ち並び、しかも良好な状態に保つべく付近の住民が保存を図ってきたものと推認される文化的な環境をも構成する。そして、対岸のCからの眺めも名勝として、歴史的文化的価値を有していて、しかも、遠望できることで豊かな生活環境を生み出していた。したがって、本件A県C町における歴史的景観は客観的価値を有する。

    また、確かに、XはBの対岸のC町に住むものである。しかし、C町はB町の対岸と近接する地域にあって、Xはそこに居住する者である。加えて、Xは、Cにおいて、B町海岸の歴史的建造物があたかも海に浮かんでいるように見える特徴的な歴史的景観を日常的に遠望し、この景観利益を享受しているものである。

    したがって、本件の景観は客観的価値を有するし、Xはその利益を享受する主体である。

 (2)ア そうだとしても、Aとしては、「違法に」という要件を充たさないと反論する。すなわち、違法性は侵害行為の態様・程度と被侵害利益の内容・性質の相関によって決するところ、本件のような景観利益は法的保護に値する利益で権利性までは認められないから、侵害行為の態様としては公序良俗違反や刑罰法規行政法規違反の態様による必要がある、との反論である。

  イ しかし、本件においては、瀬戸内海特措法3条1項に基づき、瀬戸内海環境保全に関するA県計画を策定し、「瀬戸内海の自然環境と一体をなしている史跡・名勝・・・できるだけ良好な状態で保全するよう努める」と定めている。かかる基本計画は、総合的・長期的視点から瀬戸内の環境保全を目的に(同法1条)策定されたもので、平等原則の観点からいっても、行政庁には自己拘束力が生じ、これを考慮せずにされた態様の行為は行政法規違反と同等の態様の行為と解する。同法13条も同様の趣旨である。

    そこで、確かに、代替案によっては、交通混雑が70%しか解消されない。しかし、他にも道を作る等更に幾分かの財政的出資をすれば必ず、完全な渋滞解消が見込める方法は存在するはずであるにもかかわらず、歴史記建造物がCから見えない形で本件道路を竣工したことは、上記計画を考慮に入れずされた態様の行為である。

    したがって、上記行為は行政法規違反と同等の態様の行為である。そのため、景観利益に対して「違法に」侵害行為がなされたといえる。

(3) 以上のように、Xは主張すべきである。

第2 設問2

1 (1)について

  XはAに対して2条1項に基づき、損害賠償請求をすることができる。

 2(2)について

(1)Aとしては、同条における「瑕疵」は、営造物が通常有す

べき安全性を欠き、他人に損害を及ぼす危険のある状態をいうのであって、Xのような直接の用に供していない第三者の騒音被害のような営造物を用に供することとの関連で生じる瑕疵を含まない、と反論する。

(2)しかし、公の営造物は、国民の利用に供する以上、安全

な状態に維持・管理すべきである。それゆえ、営造物が供用目的に沿って利用されることとの関連において「危害」を生ぜしめる場合も含むと解する。また、危害とは、営造物利用者は無論、利用者以外の第三者に対する危害をも含むと解する。かく解することは、損失補償的観点からも正当化される。また、設問1における景観利益同様に、環境を単なる公益と捉えることなく、一定限度で私益でもあると捉えることは、環境権に通じるところがあり、妥当な解釈である。

     本件において、計画道路は直接的にはB町住民の用に供されているものである。しかしながら、その目的たる交通渋滞解消のために計画道路が利用されることに関連して騒音被害は生じている。その結果、直接に計画道路を使用しているとは限らないXは環境基準を5デシベル超える騒音により生活妨害による精神被害を被っているの。確かに、環境基準は「維持されることが望ましい基準」(16条)ではあるが、毎日のようにこれを5デシベルも多く超える騒音が反復継続されることで、Xの受ける精神的被害は累積加重的に拡大する。

   それゆえ、Xは「瑕疵」により危害を被っている。また、本件計画道路に公共性があり、Xがこれを使用するとしても、彼此相補の関係には必ずしも立たない。本来的には、Bの交通状態解消のために本件事業は計画され、竣工されたものであるから、Xが偶然計画道路を利用するとしても反射的利益に過ぎないといえるためである。

   以上より、Xの請求は認められる、と主張すべきである。

以上

 

第2問

第1 設問1

1 C社の反論は、CB間の公害防止協定を紳士協定と捉え、Cには競艇場履行すべき法的義務はないとの主張である。

2 確かに、公害防止協定は、一方当事者が行政主体として、行政活動の一環として締結され、公権力を背景として事実上の強制を求める可能性はある。しかし、行政需要が複雑化・顕在化している現代においては、公害防止協定を締結する必要は大きい。具体的には、行政庁において法律の間隙を埋め、公益実現を図ることができ(環境基本法19条)住民においては施設から生ずる自己の生命・身体への危険を除去しうる。他方、事業者にとっても、環境へ配慮しているとの広報活動になり、決してデメリットばりではない。それゆえ、公害防止協定といえども、個別具体的に法律の優位に反しないか等を検討し、法的有効性を判断すべきである、とBは反論する。

 本件において、確かに、Bは大気汚染防止法(以下「大防法」とする)上の排出基準値は辛うじて遵守している。しかし、もとより同法は、国民の健康や生活環境の保全について支障が生じた場合は、排出基準についての上乗せ条例や(3条3項)及び総量規制基準を導入しうる(5条の2)。加えて、このように解することは行政の環境保持義務の実現ともいえ妥当である(環境基本法19条)。よって、大防法より2割程度厳しい排出基準といえども、未だ法律の想定する範囲であり、法律の優位に反しない。

  したがって、BC間の公害防止協定は有効である。

 3 また、本件公害防止協定に基づく協定履行を求める訴訟は、公権力の主体が行政上の義務履行を求める訴訟ではない。したがって、「法律上の争訟」(裁判所法3条1項)であるのは当然である。

 4 以上のようにBは反論可能である。

第2 設問2

1 新たに採用された法政策は、直罰制という法政策である。

  資料1の大防法では、33条が「命令に違反した者」を「処する」と規定している。すなわち、刑罰に貸す前提として、ばい煙排出基準違反に対する命令を前置する。

 しかし、資料2の大防法33条の2においては、13条における排出基準遵守違反については、命令を全治することなく、直接刑罰に科している(33条の2第1項第1号)。また、過失犯をも処罰する(同条第2項)。

 2 このように直罰制がとられた理由は、まず、命令前置制の下では、命令を出すと基準を遵守し、しばらくたつと遵守を怠るという事業者が多く、いわばいたちごっこになってしまい、排出基準を遵守させ、国民の健康・生活閑居保全という大防法の目的(1条)を達成する実効性に欠けた。

  次に、同改正の間には、大規模公害事件が複数顕在化しており、科学的因果関係が大防法制定時より明確になったため、直罰制に移行しやすかった。同時に、直罰制を採ることは、排出基準自体の遵守につながるため、「科学的知見の充実の下」「環境の保全上の支障を未然に防がれる」ことを旨としており(環境基本法4条)、未然防止原則に資するものであった。

 3 以上の3点が直罰制採用の趣旨である。

第3 設問3

1 (1)について

  1. まず、十分認識されていなかった問題点とは、測定データの改ざん 

等の発生である。このデータ記録・保存については、資料2の大防法

においては、その違反につき罰則がなく、十分にデータが記録・保存

されないという問題が生じる。

かかるデータの記録・保存は、行政庁における改善命令発出の要件としてのいわゆるおそれ要件と実害要件認定のための情報提供としての意味があった。それゆえ、データ記録の改ざんがなされると適切に慶全命令を出すことができなくなる。そうすると、持続可能な社会のための未然防止に資さないという問題が生じる。

  1. そこで、2010年改正においては、データの記録・保存をせず、虚偽

の記録をし、又は記録を保存しなかった者にも35条3号により罰則

が科されることになった。また同時に、改善命令発出における実害要

件も削除された。

  1. 両者は密接に関連する。すなわち、両者は一体となって未然防止原

則という我が国の環境法令の特徴を具備したほか、行政と事業者にお

ける協働を可能としたのである。

ア まず、実害要件下では、行政庁が、実際に実害の発生を確かめる

必要があったが、上記のようなデータ記録改ざんもあり、その認定を

ためらっていた。また、かかる要件は、直罰制導入の代償であったが、

そもそもばい煙規制法下でも直罰制が採用されていた上、水質汚濁防

止法の改善命令発出における要件との比較においても(同法13条)、他の環境法令との平仄を合わせたものといえる。そして、このような実害要件削除は未然防止原則に適合的であり、持続可能な発展に資する妥当な改正である。

イ 他方で、記録保存を怠ることについて罰則が生じることで、かえ

って記録・保存のディセンティヴになるとも思える。しかし、同時に

実害要件が削除されたことで改善命令が出されやすくなっている。確

かに、直罰制はあるものの、特に過失による排出基準遵守違反につい

ては、ミスがあった旨、ひいてはそのような記録をした上で、行政庁

から改善命令を受けた場合に、行政と協働して同基準を遵守するイン

センティヴになっている。したがって、両改正を通じて、一体として、

協働に資する妥当な改正といえる。

   2 (2)について

  1. まず、C社は16条における記録改ざんについて、35条3号違反

により30万円以下の罰金に処せられる。

  1. 次に、C社は13条の排出基準不遵守について、33条の2第1項第

1号違反により6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられる。

5年の長きにわたり排出に係るデータを改ざんしていたことから故

意が認められるからである。

以上