平成25年度司法試験 刑事系第2問 再現

刑事系第2問 

第1 設問1

1 逮捕①の適法性

  1. 甲はPにより平成25年2月1日10時半、路上で準現行犯逮捕された(刑事訴訟法<

以下法名略>212条2項)。しかし、V殺害は10時にH公園でされており、時間的場所的に離れている上、Pは殺害状況を自ら確知したわけでもない。このような準現行犯逮捕は「罪を行い終わってから間がない」ものとして適法か。

  1. 現行犯逮捕は令状主義の例外である(憲33)。かかる現行犯逮捕が無令状で認められる

趣旨は、逮捕者にとって犯罪の発生と犯人が時間的場所的に明白であり、誤認逮捕のおそれがないからである。したがって、「罪を行い終わってから間がない」とは、時間的場所的な接着性から犯罪の発生及び犯行が、逮捕者にとって明白であることをいうと解する。このとき、自己が直接知覚していない状況についても、他の情報と相俟って明白性が認められれば、誤認逮捕ではないことの客観的保障があるので、犯罪と犯人の明白性を一資料としてよいと解する。

  1. ア左の各号イ「罪が・・・間がない」 したがって、「罪が終わってから間がない」を充たす。
  2. 確かに、乙は10時半に路上で逮捕されているから、公園で10時に起きたV殺人とは時間的場所的にある程度離れていると評価できる。しかし、逮捕者Pは、H警察署の本部からの連絡を受けて、WがH公園で10時にVが男1と男2により殺されるのを見ており、男1が190cm、やせ形、20歳くらい、上下青の着衣、挑発であること、男2が170cm、小太り、30歳くらい、上が白の着衣、下が黒の着衣、単発であること、10時8分には司法警察員がH公園でVが死亡しているのを確認したことを、情報として得ていた。このような状況で、Pは10時20分にH公園から北西に800mいった路上というV殺人の犯人が通っても不思議でない場所時間で、190cm、やせ形、20歳くらい、上下青の着衣、長髪」という前記伝令における男1の特徴と合致する甲を発見したから、Pにとって、時間的場所的にV殺人事件の発生と甲がV殺人事件の犯人であることは十分に疑いうる状況にあったと評価できる。これに加えて、甲の着衣と靴に血がついているという212条2項3号に該当する事由があることも相まって、Pにとっては、時間的場所的にV殺人事件の発生と甲がV殺人の犯人であることは明白だったと評価できる。乙が甲を犯人と言っていることもこれを補強する。
  3. 甲の着衣及び靴に一見して血とわかる赤い液体が付着していることから、「身体又は被服に」V殺人という「犯罪の顕著な証跡がある」と認められる。

  ウ 逮捕の必要性

    現行犯逮捕も身体を拘束する強制処分であるから、その要件は厳格に解すべきであって、通常逮捕同様の必要性を要すると解する。

    本件では、甲の素性は知らず、ここで甲を取り逃がせば、逃亡のおそれがあるうえ、衣服や靴の血をあらうなど、罪証隠滅のおそれもある。したがって逮捕の必要性が認められる。

  1. よって、Pが甲を準現行犯逮捕した逮捕①は適法である。

2 逮捕②の適法性

  1. 乙はPQに対し、V殺人を甲と共謀したことを自供した。しかし、乙については212
  2. 条各号に定める事由はない。この場合でも、乙は準現行犯逮捕の要件を充たすといえるか。
  3. 確かに、共犯者が準現行犯逮捕されており、その者が共謀の存在を認めているのであ

れば、誤認逮捕のおそれはないから、共謀の存在を認めた者を準現行犯逮捕することもできるとも見える。

 しかし、準現行犯逮捕が憲法の例外であることは重い。安易に例外を拡大することは避けるべきであり、明文がない以上、準現行犯逮捕の要件充足性は各別に判断すべきであると解する。

  1. 本件において、乙は犯人として追呼されていないし、犯罪の用に供したと思われる凶

器その他の物も所持し抵るとは認められない。さらに、甲と異なり、被服や靴に血もついておらず、犯罪の顕著な証跡も認められない。また、「なぜ血がついているのか」という誰何に対しては積極的に答えており、「逃走しようと」していない。

  1. したがって、乙については212条2項各号を充たさない。よって、乙を準現行犯逮捕

した逮捕②は違法である。

  1. 差押えの適法性
  1. Pは甲を準現行犯とした逮捕する場合において、路上から200m離れた地点で逮捕から

10分後の10時40分に携帯電話を差し押さえた。①この差押には路上からの時間場所のずれがあり「逮捕の現場」といえるか(220条1項2号、3項)。また、②携帯電話を差し押さえる「必要があ」ったのかが問題となる(220条1項柱書)。

  1. ①について

ア原則

 「逮捕の現場」とは、逮捕場所と同一の管理権の及ぶ範囲をいう、と解する。逮捕の現場には被疑事実と関連する証拠が存在する蓋然性が高く、逮捕場所の管理権者の同一管理権の及ぶ範囲では令状発付の要件を実質的に満たすと考えられるからである。

イ例外

 もっとも、220条1項2号が無令状捜索差押を認める趣旨は、逮捕の現場には被疑事実に関する証拠存在の蓋然性が類型的に高いことにある。そうすると、身体や所持品の状況は場所を移動しても同じであることから、証拠存在の蓋然性に状態的な変化はないといえる。そのため、逮捕現場の状況に照らし、被疑者の名誉等を侵害し、被疑者らの抵抗による混乱を生じ、又は現場付近の交通を妨げるという事情など、その場での捜索、差押が妥当ではないとき、速やかに最寄の場所に行くことは「逮捕の現場」と同視できると解する。

  1. 本件において、Pが路上で逮捕に伴う捜索をしようとすると、酒に酔った学生の集団が

同所を通りかかり、P及び甲を取り囲んだ。このため、このような状態での捜索差押は公然のもので甲の名誉を侵害するおそれがあると評価できる。また、Pが前期捜索をしようとすると、甲は暴れ始めたから、その場での捜索差押は甲の抵抗による混乱が生じると認められる。さらに、甲らが学生の集団に取り囲まれたことにより、1台の車が路上を通行できず、停車を余儀なくされたことから、捜索により現場付近の交通を妨げていたと評価できる。したがって、その場での捜索差押は妥当ではなかったと認められる。

また、甲らは300m離れたI交番で無令状捜索差押をすることとしたが、路上から200m離れた地点で甲がつまずき、そのはずみで携帯電話がポケットから落ちた。甲はこれを差押えた。この差押えは、I交番よりも路上に近い場所での差押えであるし、捜索という強制処分によるよりも穏和な態様でなされたと評価できるからこれを否定する理由はない。したがって、速やかに最寄りの場所に行ったものと評価できる。

  1. よって、差し押さえは「逮捕の現場」における捜索差押と同視しうる(220条1項2号、

3項)。

2②について

  1. 無令状差押は逮捕に伴うので、逮捕被疑事実との関係で事件単位の原則が及ぶため、「必

要があるとき」とは、当該逮捕の被疑事実に関する差押であることをいうと解する。

  1. 本件において、乙が今朝、甲に対し報酬に関するメールを送ったと述べ、その旨記載さ

れたメールをPQに示し、これをPQは現認した。このため、PQにおいて甲がこのメールを受信していると疑う合理的な理由がある。それゆえ、事後的に見てこのメールが携帯電話に存在しなかったとしても、この時点でPは甲が落とした携帯電話に報酬に関するメールが残っていると考えて差し押さえたのだから、V殺人の共謀に関する証拠として被疑事実に関するものと認められる。

  1. したがって、差し押さえの「必要があ」ったと認められる(220条1項柱書)。

3 よって、差押えは適法である。

第2 設問2

1 実況見分調書には、別紙1及び別紙2が添付されている。この実況見分調書は、①Pが実況見分を記載した点と②(ⅰ)Wが供述した部分と(ⅱ)写真を撮られた部分がある。これらは公判期日における「供述」に代えた書面にあたり、伝聞証拠として証拠能力を欠くのではないか(320条1項)。

 2 ①について

  1. 伝聞証拠は、原則として証拠能力が否定される(320Ⅰ)。その趣旨は、伝聞証拠に

おいては知覚記憶表現叙述の各過程に誤りが混入する危険があり、反対尋問等により、その内容の真実性を吟味し誤判を防止する必要があるからである。そこで「供述」として伝聞証拠に該当するかは、要証事実との関係で、供述内容の真実性が問題となるかにより相対的に決すると解する。

  1. 本件①部分は、甲が殺人について黙秘しているので、甲の犯行を要証事実とし、Pの

実況見分の内容が問題となるから、「供述」としての伝聞証拠にあたると認められる。そうだとしても、321条3項により伝聞例外にあたるかを検討する。

  1. Kは犯行状況の再現を、視覚をもってその内容を認識したうえで書面化している。か

かる捜査は検証としての性質を有する。任意でされる実況見分も強制処分としての検証と任意か強制かの差こそあれ、その本質に違いはないから321条3項の「検証」に含まれる。よって、Kが公判廷で文書が「真正に作成された」こと、つまりKが作成したという名義の真正と、検証を真摯に行ったという作成の真正を供述した場合には、捜査報告書全体の伝聞性が解除される。

  1. したがって、①部分は321条3項の要件を充たせば伝聞性が解除される。

3 ②部分

  1. 供述部分について

ア別紙1

(ア) そもそも、実況見分の現場における指示説明は、現場における関係者の指示説明を 聞きながら検証や実況見分を行うことにより検証等の対象の存在及び状況を確認することができ、検証等にとって有益だから許される。

上記趣旨から、立会人の指示説明が、見分者がその対象を特定するに至った経緯・動機を示す指示説明(現場指示)は、実況見分の結果を補足するものとして独立性がなく調書と一体化しているから、321条3項により証拠能力が認められる。他方、上記供述を超え、供述内容である事実の存否の証明に用いられる指示説明(現場供述)は、現場を利用した供述に過ぎず、主たる目的たる要証事実との関係で供述内容の真実性が問題となるので、独立に証拠能力を備える必要がある。そこで以下検討する。

    1. 本件において、別紙1部分の立証趣旨は、犯行状況、である。甲が一貫して黙秘

している状況では、犯行状況を示すためWの証言「このように犯人の一人がVの胸に包丁を突き刺した」という証言が存在することを要証事実にすることには一定の意味があり、321条3項からの独立性はないと認められる。

(ウ) 敷衍するに、確かに、Wが「このように」などと指示代名詞を使っていることから、その供述内容が犯行自体を立証するものとも見える。しかし、本件では甲は一貫して黙秘している一方、乙が一貫して自白している。また、捜査段階からも甲はPの誰何に何も答えない一方、乙のみが「甲がVを実際に刺した」旨供述している。このとき、乙は共犯者として犯行の詳細を知っているので、虚偽を見抜かれずに甲に刑事責任を転嫁することが可能な立場にあると評価できる。また、甲にはその被服及び靴に血がついてはいたものの、これは甲が犯人であることを疑わせる状況証拠(間接証拠)に過ぎない。したがって、Wが証言する少なくとも、「犯人の一人が被害者に対し包丁を旨に刺した」という犯行状況自体を要証事実とすることは、Wの証言という直接証拠により、甲か乙がVを殺したという状況があった事の立証に資するといえる。

 (エ) よって、Wの指示は本件実況見分の補足として独立性がない。以上より、別紙1の乙の供述部分については321条3項の要件を充たせば証拠能力がある。

イ別紙2

別紙2の立証趣旨は、Wが犯行を目撃することが可能であったこと、である。上記のように、甲又は乙がVを殺したことに関する直接証拠がWの証言しかない状況では、仮にWが犯行を目撃することができなかったとすると、Wの証言の証明力は著しく低下し、本当に甲か乙がVを殺したのかさえ立証が困難になる。

したがって、「犯行状況について、私が目撃したときの立っていた位置から十分に見ることができ」たというWの供述は、Wが立っている場所から甲乙役の司法警察員2名が立っている位置までの間に視界を遮る障害物がなく、かつ、再現している司法警察員2名が街頭に照らされていたことと相俟って(321条3項により伝聞性解除済)、Wの犯行目撃可能性を要証事実とするものと認められる。よって、この場合、実況見分調書の内容を補足するものとして独立性はないといえる。

以上より、別紙2のW供述は321条3項の要件を充たせば証拠能力がある。

  1. 写真部分

写真部分についても供述同様、要証事実との関係で独立性があるかで判断する。写真であっても動作による「供述」はありうるからである。また、写真には署名押印は不要であると解する。録取過程の正確性は撮影という機械的方法により担保されているからである。

ア別紙1部分については、独立性がない。供述同様、犯行状況が要証事実だからである。

イ別紙2部分も独立性がない。Wの犯行視認可能性が要証事実だからである。

したがって、写真部分も321条3項を充たせば証拠能力が認められる。

  1. よって、321条3項を充たせば実況見分調書に証拠能力が認められる。
  2. 以上