平成25年度司法試験 民事系第2問 再現

民事系第2問 

第1 設問1

 1 EのFに対する株式譲渡の甲社との関係での効力

  1. EとFとの間での株式譲渡自体は投下資本を回収するために株式譲渡は自由であるこ

とから、有効である(会社法<以下法名略>127条)。もっとも、この譲渡を会社にも対抗できるか。①甲社は株式を譲渡により取得するには取締役会の承認を必要として譲渡制限株式を発行しているため(定款5条、139条1項)、承認の無い本件では甲社に譲渡を対抗できないのではないか、また②EからFへの名義書換がないことから、その譲渡を甲社に対抗できないのではないか(130条2項)、が問題となる。

  1. ①について

まず、本件では、株式取得者Fは前主Eとともに、譲渡承認請求をしている(137条2項1項)。しかし、Aが譲渡承認請求書の提出を取締役会に伝えなかったために、未だ承認がされていない(139条1項)。このため、Fは譲渡を甲に対抗できないのではないか。

ア原則

   139条1項が譲渡について取締役会の承認を要するとした趣旨は、会社にとって好ましからざる者が経営に参加することを防止する趣旨である。このような趣旨からすれば、取締役会が承認の機会を与えられなかった場合も、防止の判断はされていないから、139条1項に反し、譲渡を会社に対抗できないのが原則であると解する。

   本件でも、Aが譲渡承認請求書の提出を取締役会に報告しなかったため、承認の機会は与えられていないので、139条1項違反があるため、EFの株式譲渡は甲に対抗できないのが原則である。

  イ例外

   もっとも、145条1号は、137条1項の請求があり、2週間以内に139条2項の通知をしない場合には、承認をしたとみなすと規定する(145条柱書)。その趣旨は、譲渡承認請求者が永続的に不安定な地位を図るのを防止する趣旨であり、この趣旨は取締役会に承認の機会がない場合にも妥当する。したがって、譲渡承認請求から2週間が経過したときは、取締役会に判断の機会がなくとも、みなし承認があったものと解する。

   本件において、FはEとともに譲渡承認請求を平成25年2月13日に行い、その後同年3月1日の経過により2週間が経過した。したがって、みなし承認があったものと認められる。

   よって、①によってEF間の株式譲渡が会社に対抗できないとは言えない。

  1. ②について

そうだとしても、EからFへの株主名義書換は行われていない。そのため、甲社は株主名簿の名義書換を行うまでは、Eを株主として扱えば足りる(確定的効力)(130条2項)。したがって、EFの株式譲渡は甲社に対抗できない。

2甲社が平成25年総会でFを株主として取り扱うことの当否

  1. EFの株式譲渡を甲社に対抗できないとしても、甲社がFを株主として取り扱うこと

は問題がない。130条2項の趣旨は、株式譲渡自由の原則の下(127条)、日々変動する株主について会社の事務処理上の便宜を図った趣旨であるので、会社が自己の危険において名義書換未了株主を株主として扱うことは許されるからである。この点において、好ましからざる者が株主となることを防止するため、あえて取締役会という機関の承認を必要とした譲渡制限株式とは明確に区別される。

(2) したがって、甲社が平成25年総会でFを株主として扱うことは妥当である。

第2設問2

  1. 小問(1)
  1. Bは「株主」として(831条柱書)、平成25年3月18日から3ヶ月以内に、平成25

年総会の本件報酬決議取消の訴えを提起して、本件報酬決議の効力を否定する。その

際の決議事由として、①取締役の報酬の総額を3億円以内とする議案が303条違反、309条5項、298条2項違反があり、招集手続及び決議方法に法令違反があること、②賛成議決権が過半数を下回るため309条1項、361条1項の決議方法の法令違反があること、を主張する。以下①②について検討する。

  1. ①について

ア原則

   取締役会では第1号議案と第2号議案が全員一致で承認され、ABCDFに招集通知が発せられている。しかし、報酬について承認がなく、通知もされていない。そのため、25年総会における報酬議案はAが株主提案権を行使したものと認められるが(303条1項)、同議案は平成25年総会の8週間前までに請求する必要があるので(303条2項)、招集手続に法令違反があり(831条1項1号)、また本件報酬決議には総会の目的外の事項を決議したものとして(298条2項、309条5項)、決議方法の法令違反があるのが原則である。

  イ例外

   しかし、303条2項が8週間前までの請求を求める趣旨は、株主に判断の準備期間を付与する点にある。また、309条5項が目的の範囲外の事項の決議を認めないのは、取締役会設置会社では、所有と経営が分離されているので、株主の判断を確保する趣旨である。したがって、いずれも株主のための規定であるということができる。そのため、全員出席総会が開催されるのであれば、株主の判断を仰ぐことが可能であるので、上記瑕疵は例外的に治癒されると解する。

   本件において、平成25年株主総会には、株主ABCFが出席し、FはDを代理人として一切の議決権の行使を委任していた(310条1項)。このため、平成25年総会は全員出席総会と評価できる。

   したがって、309条5項違反の決議方法の法令違反及び303条2項の招集手続の法令違反は例外的に治癒される。よって、①は取消事由とはならない。

  1. ②について

AはQが有していた甲社株式につてのBによる議決権行使に関しては、Aの同意がないから無効として取り扱い、賛成480個反対400個として、本件報酬決議可決を宣言した。Aの同意がないことが議決権行使に影響があるのかが106条の適用上問題となる。

 ア106条における「共有」

  まず、Qの死亡により、Qの有していた120株は、ABCの準共有状態にあると解する。株式は共益権を含む割合的な社員たる地位であって、可分債権と同様に考えることはできないからである(民法427条参照)。

  したがって、ABCは120株を準共有していると認められる。

 イ106条における「通知」の方法

  小規模閉鎖会社では、相続における株式の帰属が会社支配権を決することになるから、106条の通知は全員の同意が必要だともみえる。しかし、あくまで準共有状態にある以上、通知は「管理」として持分の過半数で行われるべきだから、過半数の賛成があれば「通知」は可能と解する。

  本件では、ABCはそれぞれ1/3ずつの持分を有する。このうち、BCが2/3の賛成でBを「権利を行使する者」に選んで平成25年1月20日に通知したから、Bが権利行使者である。Aの同意がないことはこの点で意味がないと認められる。

 ウ106条但書の「同意」

  また、106条但書は本文を前提とするため、「権利行使者」としての「通知」がないことを要件としている。本件では、Bが有効に権利行使者としての通知がされているので、この点でもAの「同意」がないことは意味がないと認められる。

 エ したがって、Qが有していたBの甲社株式議決権120個の行使は有効として取り扱われるべきであった。そのため、賛成数480個反対数520個で本件報酬決議は否決されるべきであった。しかし、これが可決されたことには309条1項、361条1項の決議方法の法令違反が認められる。なお、この時に甲社がFを株主として扱うことが許されることは前述のとおりである。

  1. よって、Bは本件報酬決議の効力を否定するため、上記のような主張をする。
  1. 小問(2)
  1. 甲社はAD及びGに対し民法703条に基づき不当利得返還請求として、支払済の報

酬の全部または一部の返還を請求する。その際、本件報酬決議が1で見たように、取

り消されるべき決議であることから「法律上の原因」がないと主張すべきであるが、かかる主張は認められるか。

  1. そもそも不当利得は形式的な財貨移転が実質的に見て正当といえない場合に、公平の理念から調整を図る点に本質がある。それゆえ「法律上の原因」があるかは財貨保持が公平性を欠く場合をいうと解する。
  2. アA

   Aは甲社における自己の支配権を確立する目的で、BCが短期間に調達することが困難な多額の出資を伴う株主割当による募集株式の発行を実施しようと考えており、その払込金について取締役の報酬増額により捻出しようとしたものである。それゆえ、このような支配権維持目的の報酬保持は公平性を欠くと評価できる。

   但し、平成23年総会及びその直後の取締役会でAの報酬とされた2000万円分については職務執行との退会背が認められるから、財貨の保持が公平性を欠くとまでは言えない。また、Aに支払われた報酬全額は新株発行のため払込まれているが、甲は2億8000万円の返還をAに求められる。金員については、利子を払えば融資を受けられ履行できないということはないからである。

   したがって、甲社はAに「法律上の原因」がない2億8000万円の返還を求めうる。

 イ D

     確かに、DはAの息子であり、本件報酬決議において、役員の報酬引き上げについて事前に話を聞いていたから、一定程度Aの甲社支配権維持にかかわったともみうる。しかし、その関与の程度は話を聞かされ賛成しただけという弱いものであるし、2000万円というDの報酬は、23年時点でもAの報酬が2000万円とされていたことと比較すると、不自然に高いとまでは言えない。したがって、Dが2000万円の報酬を保持することが公平性に反するとまでは言えない。

   したがって、「法律上の原因」があり、甲社はDに2000万円の返還を求められない。

 ウ G

     GはDとも異なるAと血縁関係にない甲社の総務部長である。そのようなGがAから話を聞いて、議決権を行使したことは、取締役としての職責を果たしただけであるといえる。また、2000万円の報酬も不自然に高いとは言えない。したがって、Gが2000万円の報酬を保持することが公平性に反するとまでは言えない。

   したがって、「法律上の原因」があり、甲社はGに2000万円の返還を求めることができない。

第3 設問3

1 小問(1)

  1. 11の株式発行前の段階で、「株主」Bが募集株式発行を阻止するためには、210条及

民事保全法23条2項に基づき、株式発行の差し止めを求めるという手段を採ることができる。その際、①Aが甲社支配権維持を企図していることを「著しく不公正」な方法として(同条2号)、また②会社の財産を報酬という形で流出させて、新株発行の資金としたことが120条1項類推適用により@「法令・・・に違反する」として(210条1号)、差止事由を主張する。

ア「株主が不利益を受けるおそれ」

 小規模閉鎖会社において支配権の維持は、重要な利益であり、Bは現に520個対480個で甲社の支配権を維持していたと評価できる。本件新株発行がされると、Bはその支配権を失うのだから、「株主」Bには「不利益を被るおそれ」が認められる。

イ①について 

 「著しく不公正」とは、不当な目的を達成する手段として募集株式発行等による場合をいう。授権資本制度を採用しているのは、主に新株発行による資金調達を機動的かつ迅速に行うためであり、誰が支配株主であるかについての決定を取締役会(あるいは代表取締役)に行わせるためではないから、取締役会(あるいは代表取締役)が支配株主を選ぶ目的のため株式を発行することは不当な目的であるといえる。

 本件において、Aは甲社の支配権を確立する目的でB及びCが短期間に調達することが困難な多額の出資を伴う株主割当による募集株式の発行を実施しようと考えていたのだから、その目的はA自身を支配株主として選ぶ目的であると認められる。

 したがって、本件の新株発行は不当な目的達成の手段であり「著しく不公正」である。

ウ②について

 また、120条1項は「株主の権利の行使に関し」利益を供与することを規定の対象とするから、新株発行という場面は株主の地位に関するものだから同条項は直接適用できない。しかし、株主の地位を取得するに際し、その取得のための対価を会社が株主に供与することは120条1項類推適用が可能と解する。同条項は、取締役が株主の信任に基づいてその運営にあたる執行機関であるのに、その取締役が、会社の負担において、株主の権利行使に影響を及ぼす趣旨で利益供与を行うことを許すことが、会社法の基本的な仕組みに反し、会社財産の浪費をもたらす可能性があるため防止する趣旨だからである。

 本件において、Aは新株発行という株主の地位を取得するに際し、報酬という形を迂回して、その取得の対価をB社から供与されているので、120条1項が類推適用される。

 したがって、本件の新株発行は「法令・・・に違反する」といえる。

  1. 以上のようにBは主張すべきである。
  1. 募集株式発行の効力をBが否定する方法

株式発行無効の訴えを提起すべきである(828条)。無効事由としては1で述べた事由を主張する。

以上