平成25年度司法試験 民事系第1問 再現

民事系第1問 

第1 設問1

   1 AのCに対する履行請求について

  AがCに対し、保証債務の履行を請求するには以下の請求原因事実を主張する必要がある。すなわち、①AはBに対し、平成22年6月1日、甲土地を6000万円で売ったこと、②Bは同年月日、Aに対し①を保証したこと、③AがBに対し②をCのためにすることを示したこと、④Cが②に先立ち代理権を授与したこと、⑤②が書面で締結されたこと(民法<以下法名略>446条1項、99条1項、446条2項)。       

  1. 問題点
  1. 前提
    1. ②③は認められる。④は、確かに②段階では、Bは「Cから代理権を速やかに得

たい」と言っているので存在しない。しかし、Cは平成22年6月15日、BからCに対し、Cを連帯保証人とした旨の契約を認めてほしいと要請され、これを追認した。追認は事後的遡及的に効力の発生を承認する性質を有するから(116条本文)、いわば後立つ代理権授与と評価でき、④を充たす。

  1. 問題点
  2. もっとも、Cは上記追認をAに電話でしている。このため、⑤「書面」による補償契

約締結がないのではないかが問題となる(446条2項)。 

  1. 当否
  1. 「書面」

そもそも、446条2項が保証契約締結において書面を要求したのは、保証契約が情宜

に基づいて無償で行われるため、保証人の意思を明確化する趣旨である。そうすると、保証人の意思さえ確認できれば足りるから、「書面」とは保証人の意思さえ現れていれば足りると解する。

  1. 本件において、確かに、Aは電話で追認していることから、「書面」に意思が表示さ

れていないようにも見える。

  しかし、本件では、売買契約書にかかる代金債務の連帯保証人になる旨の書面には、Cが連帯して保障する旨が記され、A及びBが署名し、Bの署名には、BがCの代理人である旨が示されていた。そうすると、追認が遡及的な効力発生の承認としての性質を有することから、Cが追認したことと相俟って、上記Cの保証意思は示されていたと評価できる。したがって、上記書面2通は446条2項の「書面」と認められる。

  1. よって、Aの主張は妥当であり、その請求は認められる。

第2 設問2

1 Bの主張

  1. BはEに支払った報酬に相当する金銭支払いをFに求めるために、BF間の賃貸借契

約における用法義務違反に関する債務不履行に基づく損害賠償請求を主張する(415条前段、616条、597条2項)。

  1. 用法義務違反

BはFに対し平成23年10月1日、丙1階部分を賃料月額40万円で貸し渡した。賃貸借契約における借主は「契約に定めた目的に従い」使用収益する義務を負う(616条、597条2項)。本件BF間の賃貸借契約の目的は、丙1階部分をコーヒーショップとして使用することである。

しかし、Fは内装工事を行い、丙建物の一部に亀裂を生じさせ、丙建物1階部分で雨漏りを生じさせた。コーヒーショップとしての使用にとって雨漏りは有害であるのみならず、丙建物全体の維持にも支障が生じるほどの雨漏りであるから、コーヒーショップとしての使用「目的に従」った使用収益とは評価できない。したがって、この点でFは「債務の本旨に従った履行をしな」かったと認められる(415条前段)。

  1. 帰責性

債務不履行には、債務者側に故意、過失又は信義則上これと同視しうる事情が必要と

解する。無過失責任を認めたのでは、債務者の行為が萎縮するからである。そして信義則上債務者の故意、過失と同視しうる事情とは、履行補助者の故意過失をいう。

 本件において、Fは丙1階部分をコーヒーショップとして使用するため、平成23年10月3日丙1階部分の内装工事をHに発注し請け負わせたからHはFの履行補助者といえる。そのHは内装工事の際に誤って丙建物の一部に亀裂を生じさせたという過失があり、これにより雨漏りという用法義務違反が生じた。したがって、Fには、履行補助者の過失として信義則上F自身の過失があると同視しうる。

 よって、Fには帰責性がある。

  1. 以上のように、BはFに主張する。

2 Fの主張

 Fは、第一に、賃貸人Bには修繕義務があり(606条1項)、丙1階部分雨漏りの修繕はむしろBの債務であるから、Fに債務不履行はない、と主張する。第二に、BがHに内装を行わせることについて承諾していることから、Fに帰責性はない、と主張する。第三に、Bもまた修繕により建物全体の維持による使用収益という利益を得ているから、修繕費用全てをFに請求することはできず、損益相殺されるべきだ、と主張する。

  1. いずれの主張が認められるか

Bの主張がおおむね理由があり、Fの主張には損益相殺以外理由がない。したがって、以下ではFの主張に損益相殺以外理由がないことを確認し、その後、Bの主張が正当であることを確認する。

  1. Fの反論の当否
  2. ア「修繕」(606条1項)

606条1項が賃貸人に修繕義務を課す趣旨は、賃貸借契約が目的物を賃借人に使用収益させることを本質とするので、「使用収益に必要な修繕」を義務としたものである。それゆえ、使用収益に必要な限度を超えた大規模な修繕は606条1項の「修繕」には含まれず、小規模な修繕のみが「修繕」であると解する。

本件において、亀裂の修繕は丙1階部分のみならず、丙建物全体の維持に支障が生じるほどの亀裂を修繕したものであることから、丙の使用収益に必要な限度を超えた大規模な修繕と評価できる。したがって、Eの修繕は「修繕」には当たらない。

よって、Fのこの点についての反論には理由がない。

イ承諾

賃貸借契約は賃借人に使用収益させることを本質とするので、承諾が何に対する承諾であるかはその契約の目的に従って決するべきである。

本件において、BF間の契約はコーヒーショップとしての使用を目的として、丙1階部分を賃貸するものである。そして、承諾に至る経緯は、コーヒーショップとしての使用のための内装の使用及び施工方法の検討結果をFがBに伝え、それに従いHに内装工事を行わせることについての承諾である。したがって、Bが承諾したのは、あくまでコーヒーショップとしての使用に必要な内装変更のためのH履行補助の承諾であるといえる。

しかし、本件において、Hの内装工事により、丙建物の一部に亀裂が生じ、丙建物の維持には支障が生じた。Bは丙建物の維持が困難になるHの内装工事についての承諾はしていないので、この点についての承諾はなかったと評価できる。

したがって、Fのこの反論には理由がない。

ウ 損益相殺(418条類推適用)

 同一の原因により、一方当事者が利益を得、他方当事者が損失を被った場合、そのこと自体は過失とは言えないので過失相殺を定める418条の直接適用はできない。もっとも、同条は損害の公平な分担を趣旨とするものであるから、他方当事者の損失を一方当事者と公平に分担すべきであり、同条が類推適用されると解する。

 本件において、雨漏りの修繕という原因により、Bは建物の維持により丙を所有者として使用収益可能であるという利益を得ている。また、同一原因により、Fは用法義務違反としてBに損害賠償義務を負わなければならないという損失を被る。そのため、Bが得た利益相当額はBのFに対する請求において損益相殺されるべきである。

 したがって、この点についてのFの反論は妥当である。

  1. Bの主張の正当性

アBの主張するように、Fには用法義務違反の債務不履行が認められる。

イまた、FにF自身の過失と同視しうる履行補助者Hの過失があるとみてよいことは、Fが、自らの法律行為の拡充のために履行補助者を用いた場合、その履行補助者を用いる事に内包されている履行補助者の不履行の危険については、相手方を保護するために本人が責任を負うべきであることからも正当化される。

ウしたがって、Bの主張は正当である。

  1. よって、Bの主張が認められ、損益相殺のみされる。

第3 設問3

 1 Gが報酬相当額をBに請求する権利

  1. GはBに対しEへの報酬相当額を「必要費」償還請求権として請求する権利を有し

ている(608条1項)。

  1. アBはGに平成23年11月1日丙2階部分を賃料30万円で貸し渡した。その後、

台風により丙2階の窓ガラスが損傷したためこれを修繕し30万円を支出した。この支出は「必要費」であるといえるか(608条1項)

イ 賃貸借契約は借主による目的物の使用収益を本質とするから、その賃貸借契約の目的上、使用収益に必要な費用は「必要費」であると解する。

ウ 本件において、BG間の賃貸借契約の目的は、丙2階部分の学習塾としての使用である。しかし、台風により丙2階部分は窓が損傷し、外気が吹き込む状態となったため、児童や生徒に対し授業をすることに支障が生じた。Gは修繕を求めるべくBに状況を知らせようとしたが、Bの所在を把握できなかった。したがって、学習塾としての丙2階部分使用という目的のため、外気が吹き込まないようにする修繕費は必要な費用だったと評価できる。

エ よって、上記30万円は「必要費」にあたる。以上より、GはBに30万円の必要費償還請求権という権利がある。

2 Dの主張する判例について

  1. Dの主張する判例は、抵当権について登記をした場合、登記により物上代位の可  
  2. 能性は公示されているから、抵当権設定後、賃料債権を受働債権として相殺しようとする者に対して、優先的に物上代位により賃料を取得したことを対抗できる、という判例である。しかし、本件にはその射程が及ばないとGは主張すべきである。以下、理由を述べる。
  3. 判例の事案は、相殺当事者間に継続的な関係があり、相殺合意に基づき相殺をする事案であったため、抵当権による公示があれば、物上代位の可能性を予測できる事案であったといえる。

   これに対して、本件は、必要費という本来「賃貸人の負担に属する」費用を償還するという緊急事態により生じたものであり、両当事者の間に債権発生についての明確な予測ができない事案である。

以上

 

 [O1]もう一歩踏み込んで、保証人意思の表示だけでいいのか、双方当事者必要かについても問題があるということを示しておいた方が無難だったか。