龍城苑

水底に鯉の身動ぐ冬は来ぬ 冬立つや水底の鯉身動がず 水底の鯉身動がぬ冬は来ぬ 山茶花に瑕なし青春に悔多し 山茶花に瑕一つなしわが而立 蟷螂の眼より蟻取り付きぬ 蟷螂の目よりぞ蟻の食い付けり 二度三度蟻の触角当りをり 触角の幾度触るる骸かな 幾度も蟻…

寝台車堅き毛布を引き寄せぬ 引き寄せてまた曳きよする毛布かな 引き寄せて子も引き寄する毛布かな 身と同じ近さに寄する毛布かな 己が身となるまで寄する毛布かな 同体となるまで寄する毛布かな わが身たるまで毛布にくるまるる 引き寄する毛布わが身となる…

秋刀魚・林檎

掌の窪みへ紅葉散りにけり

鶏頭・立冬

槍鶏頭傾きてなほ立ち尽くす 鶏頭の槍の容に立ち尽くす 今朝冬の子の泣きてういる注射かな 言ひしこと繰り返しをり 言ひしこと繰り返す母枯芙蓉

塩引鮭

飛沫く瀬の鮭小屋に鮭吊しけり 月明の鮭小屋に鮭吊しけり 鮭小屋や太き梁より鮭吊し 口拡げ梁より鮭の干されけり 鮭の口拡げ梁より吊しをり 鮭小屋の梁より鮭の吊られけり 顎に鉤挿したる鮭の吊られけり

大日向・寄鍋

一鍬に土盛り上ぐる小春かな 冬耕の畝に午後の日あまねしや 鋤き返す畝に冬の日遍しや 小さき手の団栗握りしめにけり 雑炊や身にある疲れ心地よく 身に残る疲れの清し根深汁*1 身に残る疲れ清しきおじやかな 寄鍋のつみれ円むる母子かな *1:とろろ汁

八芳園

四阿に鯉のあぎとふ薄紅葉 切妻の氷柱離れゆく雫かな 藁屋根の氷柱離れゆく雫かな せん月に氷柱離れゆく雫かな 白日に氷柱離れゆく雫かな

十五夜・炭を継ぐ

名月やカンテラ吊す丸太小屋 談笑の鎮まりや炭はぜにける 炭継ぐや女の高き笑ひ声

ナイターの空曳く飛行雲ありぬ ナイターの幼き息の止まりけり

十三夜・隼人瓜

味噌樽の暗きに浸くる隼人瓜 味噌樽に浸くる暗さや隼人瓜 楢樽の小糠纏へる隼人瓜 樽よりの糠纏ひつつ隼人瓜 味噌樽に味噌拭ひをり隼人瓜 仕込味噌指より口に運びけり 天麩羅の衣より浮く十三夜

遺すとは棄てぬことなり菜引汁 棄つるもの遺すべきもの開戦日

秋刀魚・後の月

火焙りの脂落ちゆく秋刀魚かな 塩焼の脂落ちゆく秋刀魚かな 臨月の膨らみ撫づる十三夜 臨月の身反らす妻や葡萄剥く 臨月の身反らす妻や黒葡萄 臨月の身反らす妻や冬菜籠 臨月の身反らす妻や蕪煮る

双六の賽握る手の震へかな 双六の皆見る賽の行方かな 双六の見守る賽の行方かな 双六の賽の行方ぞ誰も見る

懐かしきものに手止まる煤払

鉢巻の肩まで垂るる運動会 運動会鉢巻緊く締め直す

那須

恋人と鐘撞きにけり初紅葉

コピー機のみどりの光震災忌 コピー機のみどりの光原爆忌

焼芋

抱へ持つ石焼芋の日の温み 抱へ持つ石焼芋の火照りかな 焼芋の日の温もりを抱へけり 抱へ持つ石焼芋の余熱かな 抱へ持つ石焼芋の微熱かな 石焼芋抱え持つ帰路急ぐなり おづおづと来ては焼芋手渡さる おづおづと手渡すバレンタインの日 一人では渡せぬバレン…

一音に迷ふ子の名や神無月 一音に悩む子の名や神の留守

零余子飯立退期限切られけり 立退の期限示しぬ零余子飯 立退の迫る一家や零余子飯 立退を迫らるる家納豆汁 立退の判決示す隙間風 干柿の家に立退求めけり おでん煮る一家に退去告げにけり 古米炊く家の立退求めけり 古茶汲める女に退去求めけり

掌に木の葉散る影掬ひけり カンバスに紅葉散る影過りけり

白鷺の吹き戻さるるわたつうみ

葉擦れより静かなものに赤蜻蛉 瞑りて確む葉擦れ秋あかね 瞑りて葉擦れの音や雁の棹 二百十日遠き葉擦れに耳留むる 葉擦れにも数といふもの野分だつ 葉擦れにも音の違ひよ野分たつ 葉騒より野分の雲の湧きにけり 瞑りて遠の葉擦れや原爆忌

妻の指示聞き流しをり煤払

小牡鹿・鹿の子

小牡鹿の顧るものなき疾駆 小牡鹿の疾駆は何も顧ず 小牡鹿の走りや何も顧ず 小牡鹿の顧ぬものなき疾駆かな 小牡鹿の月の巖まで駆けのぼる 小牡鹿の月の巖に立ちて啼く 小牡鹿の月の尾根まで駆けのぼる 小牡鹿の過りぬ何も顧ず 小牡鹿の疾駆の影の過りけり 小…

花鶏

野分後花鶏来て実を啄めり 連れ添ひの花鶏の来る野分あと 高きより花鶏の来る野分あと 高きより花鶏降り来る野分あと 高きより花鶏来れり野分あと 折れ枝に花鶏のつどふ野分あと

大試験

不揃ひの鉛筆並べ*1大試験 鉛筆の長さ短さ大試験 傷のある鉛筆握る大試験 大試験鉛筆握りしめにけり 大試験傷の鉛筆握り待つ 鉛筆の傷握り待つ大試験 大試験鉛筆の傷触れて待つ 鉛筆の傷触れて待つ大試験 *1:並ぶ、置ける

夢殿

夢殿の扉の開くより草雲雀 草雲雀夢殿の扉の放たれつ

夕顔・青葉松虫

心あてにそれかとぞ見る白露の光そへたる夕顔の花(源氏物語・夕顔)