ジャン・コクトー

私の耳は貝の殻 海の響を懐かしむ

リルケ

各人に固有の死を与えたまえ 彼がそこで愛と意義と苦しみを持った あの生のなかから生まれでる死を

北原白秋 桐の花・聴けよ妻ふるもののあり 

短歌は一箇の小さい緑の古宝玉である、古い悲哀時代のセンチメントの精エツキスである。古いけれども棄てがたい、その完成した美くしい形は東洋人の二千年来の悲哀のさまざまな追憶おもひでに依てたとへがたない悲しい光沢をつけられてゐる。その面には玉虫…

円谷幸吉の遺書

父上様 母上様 三日とろろ美味しゅうございました 干し柿、もちも美味しゅうございました 敏雄兄、姉上様、おすし美味しゅうございました 勝美兄姉上様、ぶどう酒、リンゴ美味しゅうございました 巌兄姉上様、しそめし、南ばんづけ美味しゅうございました 喜…

サムエル・ウルマン 青春の詩

青春とは人生のある期間ではなく、心の持ち方をいう。薔薇の面差し、紅の唇、しなやかな肢体ではなく、たくましい意思、豊かな創造力、炎える情熱をさす。青春とは人生の深い泉の清新さをいう。青春とはきょうだを退ける勇気、安易を振り捨てる冒険心を意味…

三橋鷹女 第四句集『歯朶地獄』自序

一句を書くことは 一片の鱗の剥奪である

中原中也 『山羊の歌』「羊の歌」

汽車の笛聞こえもくれば 旅おもひ、幼き日をばおもふなり いなよいなよ、幼き日をも旅をも思はず 旅とみえ、幼き日とみゆものをのみ

雪              三好達治

太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。 次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。

甃〔いし〕のうへ    三好達治

あわれ花びらながれ をみなごに花びらながれ をみなごしめやかに語らひあゆみ うららかの跫音(あしおと)空にながれ をりふしに瞳をあげて 翳(かげ)りなきみ寺の春をすぎゆくなり み寺の甍(いらか)みどりにうるほい 廂々(ひさしひさし)に 風鐸(ふう…

伊香保の道行きぶり 油谷倭文子

かなたの嶺は墨を磨りかけたる様にて、雲のまよふこそ物おそろしけれ。

吉野詣記 三条西公条

昨日も山中野火ところどころ見えし。今日はまた大きなる木焼けて、折りかへりたる中より炎あがれり。右は山、左は深き谷。足もとにも火燃えける木の下を通れる。

三好達治 乳母車

母よ 淡くかなしき もののふるなり紫陽花いろの もののふるなり 母よ私は知っているこの道は 遠く 遠くはてしない道

そして詩が本質する精神は、この感情の意味によって訴えられたる、現在(ザイン)しないものへの憧憬である。 引用元は、萩原朔太郎『詩の原理』。青空文庫にもあります。 短歌が人を感動させるために必要な要素のうちで、大きなものが二つあると思う。それ…

穂村弘『短歌といふ爆弾』

あれはまちがいだった。あれはまちがいだった。世界を変えるための呪文を本屋で探そうとしたのはまちがいだった。どこかの誰かが作った呪文をもとめたのは間違いだった。僕は僕だけの、自分専用の呪文を作らなくては駄目だ。

正岡子規 墨汁一滴

昨夜の夢に動物ばかりたくさん遊んで居る処に来た。その動物の中にもう死期が近づいたころげまわって煩悶している奴がある。すると一匹の親切な兎があってその煩悶している動物の辺に居て自分の手を出した。かの動物はすぐにうさぎの手を自分の両手でもって…

ヴィトゲンシュタイン

1 世界は起こっていることの総体である。 2 起こっていること、すなわち事実とは、事態(事柄)が成立するということである。 3 事実の論理的像が思考である。 4 思考とは意味を持つ命題である。 5 命題は要素命題の真理関数である。 6 真理関数の一般…

アンドレ・ジッド集成1 二宮正之訳 を読む 地の糧

明日を夢見ることは一つの歓びだ。しかし明日の歓びは別の歓びだ。そして幸いにして、何ものも人が夢に描いたそれにはにていない。なぜなら、それぞれのものに価値があるのはまさにことなっていればこそなのだから。 それはよかった、と言えないときには、ま…

アンドレ・ジッド集成1 二宮正之訳 を読む アンドレ・ヴァルテールの手記

www.chikumashobo.co.jp 初期の作は特に断片的な傾向だが、その実、ジッドの生涯を貫くテーマが特に、『アンドレ・ヴォルテールの手記』に表出している。訳は少しつたない印象がある。個人的には『ぬた』のような作風は好むが、後に繋がる清教徒的、西洋文化…

永井荷風 断腸亭日乗 

薄暮中洲に往き小星(お歌)の病を問ふ。帰途二更の頃永代橋上に月の昇るを看る、月鳴のかなたに横雲のたな曳渡るさま清親*1の筆の如し s6.7.2 横雲のたな曳き渡る居待月 枯れ蘆の茂り梢まばらなる間の水たまりに、円き月の影杯を浮べたるが如くうつり…

風を切ってなぜに僕らは急ぐ 冷たい風のなかほんのり甘く

北窓開く

佐保姫の息吹に浸す叩き鑿 佐保姫の息吹に浸す茶筒かな 佐保姫の息吹に解く旅衣 佐保姫の息吹に解く旅荷かな 佐保姫の息吹に解く旅荷あり 佐保姫の息吹に旅荷解きをり 佐保姫の息吹に開く弁当箱 佐保姫の息吹に開く御弁当 佐保姫の息吹に御重開きけり 春雷の…

萩原朔太郎 『月に吠える』より「愛憐」 また、「春の感情」

愛隣 きつと可愛いかたい歯で、 草のみどりをかみしめる女よ、 女よ、 このうす青い草のいんきで、 まんべんなくお前の顔をいろどつて、 おまへの情欲をたかぶらしめ、 しげる草むらでこつそりあそばう、 みたまへ、 ここにはつりがね草がくびをふり、 あそ…