俳句

白雲の夜も流れつつ牧水忌

竹林に雨音到る炉の名残 みづうみに雨降り止まず炉の名残 一山の日をとどめたる菫かな

ふらここの子の背を押せば風に乗る

連山の雲まとひ聳つ百日紅 連山の雲纏ひ聳つ百日紅

虫出しの雷悲しみは胸を打つ 寒雷の夜や悲しみは胸を打つ 遠雷の夜は哀しみの胸を打つ 遠雷の夜は胸を打つおもひあり 遠雷の夜は抱きしむる子の熱き 遠雷の夜は抱き上ぐる子の熱き 遠雷の夜は独り居の水を干す

花辛夷

雲影の峡を離るる流し雛

強情の千の利休の忌なりけり 相生垣瓜人

琅玕に雨音籠る利休の忌 琅玕に雨音兆す利休の忌 琅玕に雨音到る利休の忌 琅玕に到る雨音利休の忌 琅玕に兆す雨音利休の忌

阿武隈の天の碧さよ桃の花

春の波子の足跡をさらひゆく 風の日は青空𨗉し花辛夷

沖へ垂るる頭三月十一日 深くこうべ垂れ三月十一日 祈りたるこうべの深し初桜 祈り居る頭の深し初桜 祈り居る額の深し初桜 祈りたる影の深さよ初桜

朧月夜

鼻歌を口ずさみゆく月朧 鼻歌の子と歩みゆく朧月 鼻歌の子と歩みゆく月朧 鼻歌の子と歩みゆく星朧 鼻歌の子と歩みゆく春の月 鼻歌の子と歩みたる春の月 ハミングの子と歩みたる春の月

賢治忌

海峡を灯のわたりゆく賢治の忌 海峡を灯の渡りゆく賢治の忌 海峡をわたる列車や賢治の忌

十三詣

十三詣まぶしき橋を渡りけり 十三詣まぶしき橋を進みけり 十三詣まばゆき橋を進みけり 十三詣まぶしき橋を進むなり 十三詣まぶしき橋を歩みをり 十三詣まばゆき橋を歩みをり 十三詣まばゆき橋を歩み来る 十三詣まばゆき橋を歩み来ぬ 十三詣まばゆき橋を歩み…

月日は百代の過客にして、行かふ年も又旅人也 『奥の細道』冒頭

旅の本質は変化そのものにある。 *1 舟の上に生涯をうかべ、馬の口をとらえて老をむかふる物は、日々旅にして、旅を栖とす 一所不住の境界それ自体が、比喩的に不動の「栖」となる。鮮やかな逆説。 世界の実相そのものが旅、つまり変化なのだ。 *1:この人生…

川本皓嗣 『俳諧の詩学』

「うつり・ひびき・にほひ・位」そして「走り」などは、余情の共通性を求めるものである。

『俳諧の詩学』川本皓嗣

「軽み」とは、かすかに「本意」を匂わせながら、その重苦しい規範性と観念性を脱することではないか

足あとの波に続きぬ春の浜 足あとの波へと続く春の浜 足あとの海へと続く春の浜 足あとの海に伸びたり春の浜 足あとの波へ伸びゆく春の浜 足あとの波へ伸びたり春の浜 足あとの沖へ伸びたり春の浜 足あとの沖へと続く春の浜 足あとの海に続きぬ春の浜 足あと…

多喜二忌や高き鼻梁を鷹も持つ 啄木忌高き鼻梁を鷹も持つ 耕二忌や高き鼻梁を鷹も持つ 達磨の忌高き鼻梁を鷹も持つ 達磨忌や高き鼻梁を鷹も持つ

引鶴のこゑ透くまでに翔りける 初荷より溢るる色を解きにけり 遺言を執し春愁にはかなり 遺言を開き春愁にはかなり尋問を了へて春愁にはかなり 相槌を打てば春愁にはかなり 晩夏なり厚き鼻梁を吾子も持つ 晩夏なり厚き鼻翼を吾子も持つ 晩夏なり高き鼻梁を鷹…

鶴のこゑ虚空に罅のあるごとし

尉面を洩るる白息ゆたかなり すべり台滑る白息豊かなり 鉄棒を廻る白息豊かなる 雲梯の一つとばしや春の草 雲梯の一つとばしや楓の芽 雲梯の一つとばしや百千鳥 雲梯の一つとばしや初燕 雲梯の一つとばしや巣立鳥

しだれ梅枝垂るる淵の碧さかな

春愁や眠る子の顔我に似て 春愁やうすき瞼を吾子も持つ

春雨の故山を逸れて虹立てり 春雨を逸れて故山に虹立てり 春雨を逸れて虹立つ水田あり 春雨を外れて虹立つ水田あり 春雨を逸れて水田の春の虹 春雨を逸れて水田に虹立てり 春雨を外れて水田に虹立てり 春雨を逸れて虹立つ水田かな 叢雨を逸れて故山に虹立て…

藤原たかを

丘までの靄がふくらむ春の昼 寒雲のひとひら燃えて日を離る 水底を影遅れゆく流し雛 ひかり飛ぶものそれぞれの冬支度 河童忌の雨逸れて立つ虹淡き 若水の桶揺れて星あふれ出づ 溪空へ瀬明りのぼる夕河鹿

白波に息合せ海女潜りけり 白波に息合せ海女潜きけり 雲影の峡離れゆく流し雛 白波と息合はせ海女潜きけり

回転扉

春風を連れて回転扉入る 回転扉春風連れて入りにけり 回転扉春風連れて推しにけり 春風を連れて回転扉推す 春風を従へ回転扉推す 春風を連るる回転扉かな はるかぜを連るる回転扉かな 春風を容れて回転扉推す 東風連れて回転扉推しにけり

立子忌

紅梅のふふむ立子の忌なりけり 立子忌の流れに落つる椿かな 立子忌の風の椿の白さかな 立子忌の夕風深し玉椿 立子忌の太白うるむ玉椿 立子忌の太白高く潤みたり 立子忌の太白高く潤みをり*1 太白の高きに潤む立子の忌 太白の高きにうるむ立子の忌 *1:宵の明星

子の髪の薄茶に透くる春日かな 子の髪の栗色透くる春日かな 子の髪の鳶色透くる春日かな 栗色の子の髪透くる春日かな 子の髪の栗色に風光りけり 栗色の子の髪に風光りをり 栗色の子の髪に風光りけり 青空のふかさに割るる石鹸玉 青空の深きを風のしゃぼん玉 …