俳句

寒晴やシャツ拡げ干す朝まだき

破魔弓・破魔矢

破魔弓や桐の木目の名前旗 金箔の鏃に押せる破魔矢かな 破魔弓の絃張り詰むる細さかな

サイレンの音の近づく霜のこえ

逆上り繰り返す子や冬椿 逆上り繰り返す背や冬椿 朴落葉蝶の骸を覆ひけり

興禪寺

光輪にかざす柊挿しにけり 柊を挿すや光輪仰ぎつつ 黄落や手庇に見る那須五峰 相触れし音に紅葉の散りにけり 降り急ぐ落葉の音を聴きにけり 竹筒に挿す柊の甘雫 竹筒に柊挿せり薄月夜 竹筒に挿す柊の雫かな 繊月や木の葉散る音擦るる音

登記簿の名に斜線引く黄落期 戸籍簿の斜線や十二月八日 戸籍簿の見当たらず三月十日 戸籍簿の太き斜線や終戦日 戸籍簿の斜線真太し敗戦日

根深汁・おしるこ・葱のグラタン・千両・万両

しぐるるや木匙に掬ふ汁粉餅 風花や木匙に掬ふ汁粉餅 幾千両幾万両と色づきぬ 千両の鴇色万両の柑子色 千両の丹色万両の柑子色 唇を焼き根深汁啜りけり 唇を焼きたる根深汁啜る 根深汁唇焼きて啜りけり 根深汁唇の端焼きにけり 根深汁下唇の焦がれけり 根深…

葱・柿

包丁に葱と葉葱と分かちけり 包丁に葱切り落とす速さかな 葱と葉を繋ぐみどりの淡さかな 葱と葉とつなぐ翠や刃を当つる 葱と葉を繋ぐさみどり切りにけり

零余子飯

冬萌や産衣にくるむ赤ん坊 雪洞を吹き消すをのこ宝船

角川書店 俳句 2017 11

手いっぱい 抜井諒一 もう草と呼べざる丈の夏野原 滝を見る人の大きな手振りかな 手花火をいたはるやうに屈みたる 団栗の二つで子の手いつぱいに ゲレンデを残して山のよそおへる 体より寒さ抜けゆくとき眠し 風花の止みてどこにも無かりけり 頸動 山本肯三 …

猪・芋

芋運ぶ音の高まる野州かな芋箱に芋の転がる音の無し

龍城苑

水底に鯉の身動ぐ冬は来ぬ 冬立つや水底の鯉身動がず 水底の鯉身動がぬ冬は来ぬ 山茶花に瑕なし青春に悔多し 山茶花に瑕一つなしわが而立 蟷螂の眼より蟻取り付きぬ 蟷螂の目よりぞ蟻の食い付けり 二度三度蟻の触角当りをり 触角の幾度触るる骸かな 幾度も蟻…

寝台車堅き毛布を引き寄せぬ 引き寄せてまた曳きよする毛布かな 引き寄せて子も引き寄する毛布かな 身と同じ近さに寄する毛布かな 己が身となるまで寄する毛布かな 同体となるまで寄する毛布かな わが身たるまで毛布にくるまるる 引き寄する毛布わが身となる…

秋刀魚・林檎

掌の窪みへ紅葉散りにけり

鶏頭・立冬

槍鶏頭傾きてなほ立ち尽くす 鶏頭の槍の容に立ち尽くす 今朝冬の子の泣きてういる注射かな 言ひしこと繰り返しをり 言ひしこと繰り返す母枯芙蓉

塩引鮭

飛沫く瀬の鮭小屋に鮭吊しけり 月明の鮭小屋に鮭吊しけり 鮭小屋や太き梁より鮭吊し 口拡げ梁より鮭の干されけり 鮭の口拡げ梁より吊しをり 鮭小屋の梁より鮭の吊られけり 顎に鉤挿したる鮭の吊られけり

大日向・寄鍋

一鍬に土盛り上ぐる小春かな 冬耕の畝に午後の日あまねしや 鋤き返す畝に冬の日遍しや 小さき手の団栗握りしめにけり 雑炊や身にある疲れ心地よく 身に残る疲れの清し根深汁*1 身に残る疲れ清しきおじやかな 寄鍋のつみれ円むる母子かな *1:とろろ汁

八芳園

四阿に鯉のあぎとふ薄紅葉 切妻の氷柱離れゆく雫かな 藁屋根の氷柱離れゆく雫かな せん月に氷柱離れゆく雫かな 白日に氷柱離れゆく雫かな

十五夜・炭を継ぐ

名月やカンテラ吊す丸太小屋 談笑の鎮まりや炭はぜにける 炭継ぐや女の高き笑ひ声

ナイターの空曳く飛行雲ありぬ ナイターの幼き息の止まりけり

十三夜・隼人瓜

味噌樽の暗きに浸くる隼人瓜 味噌樽に浸くる暗さや隼人瓜 楢樽の小糠纏へる隼人瓜 樽よりの糠纏ひつつ隼人瓜 味噌樽に味噌拭ひをり隼人瓜 仕込味噌指より口に運びけり 天麩羅の衣より浮く十三夜

遺すとは棄てぬことなり菜引汁 棄つるもの遺すべきもの開戦日

秋刀魚・後の月

火焙りの脂落ちゆく秋刀魚かな 塩焼の脂落ちゆく秋刀魚かな 臨月の膨らみ撫づる十三夜 臨月の身反らす妻や葡萄剥く 臨月の身反らす妻や黒葡萄 臨月の身反らす妻や冬菜籠 臨月の身反らす妻や蕪煮る

双六の賽握る手の震へかな 双六の皆見る賽の行方かな 双六の見守る賽の行方かな 双六の賽の行方ぞ誰も見る

懐かしきものに手止まる煤払

鉢巻の肩まで垂るる運動会 運動会鉢巻緊く締め直す

焼芋

抱へ持つ石焼芋の日の温み 抱へ持つ石焼芋の火照りかな 焼芋の日の温もりを抱へけり 抱へ持つ石焼芋の余熱かな 抱へ持つ石焼芋の微熱かな 石焼芋抱え持つ帰路急ぐなり おづおづと来ては焼芋手渡さる おづおづと手渡すバレンタインの日 一人では渡せぬバレン…

一音に迷ふ子の名や神無月 一音に悩む子の名や神の留守

零余子飯立退期限切られけり 立退の期限示しぬ零余子飯 立退の迫る一家や零余子飯 立退を迫らるる家納豆汁 立退の判決示す隙間風 干柿の家に立退求めけり おでん煮る一家に退去告げにけり 古米炊く家の立退求めけり 古茶汲める女に退去求めけり