強霜の闇纏ひ聳つ浅間山

強霜の闇纏ひけり極楽寺

寄鍋

槍鶏頭白日帯びて枯れにけり 冬靄やポストに封書落つる音

鶴カントリー倶楽部

暁光の雄蘂に宿る寒椿

貸金の督促送る枯柳

ホア・ルー

涼風をとどめブーゲンビリアかな 涼風をとどむるブーゲンビリアかな ・黎明の霊廟に降る瑠璃のこうえ 温もりの背にある牛を冷やすなり ・背の瘤の大き水*1牛冷やしけり 霊廟の手水の杓や一葉落つチェス盤に黒き騎士置く露台かな チェス盤の騎士進めをり夏舘*…

ハロン湾

パイナップル売る手貰ふ手香りけり 桃渡す手も貰ふ*1手も匂ひ立つ 龍天に昇る諸島の雲間かな 龍天に昇る山河の蒼さかな 初漁の水夫跳び乗る暁の舟 ・残照の遠き山火の走りけり 国栖原の*2遠き畔火の走りけり 黄昏の帆影曳きゆくヨットかな 一湾に潮風満つる…

ハノイ旧市街・郊外

磯鴫庵虎御前の雨降りにけり 扉を開くより水鉄砲に打たれけり 怒る妻水鉄砲に打たれけり ペチュニアや路地裏に聴く胡弓の音 頬寄せてパイナップルを喰うべけれ 恋人と頬寄せ夏の蜜柑かな 夜市のもろこしの火に座しにけり宵の市田螺の剥き身並べけり

ハノイ朝

杜影の湖にたゆたふ御講凪 みづうみに杜影のある御講凪 葉柳やみづうみにある夜の蒼さ 対岸を見果てぬ河や宵涼み 釈奠や黒き杜ある水鏡 釈奠や暁の舟置く水鏡 一柱の支ふる社朱ぼん咲く 一柱の支ふる寺や花蜜柑 水芭蕉古城の池に浮かびけり 網篭の鶏のこえ夏…

ホーチミン宵の口

おくんちや遠く奏づる手風琴 みくんちや胡弓奏づる兄妹 ・おくんちや朱き刺繍の獅子の旗 ▲傀儡師操る糸の縺れけり 人形の手足縺るる晩夏かな

ホーチミン夜

・夜市の間抜け来る石鹸玉 夜市の呉座に吹きういる石鹸玉 スコールや諸人宿す阿弥陀堂*1 噴水の火息みて王宮現れぬ 噴水の火息めば古城の現れぬ *1:歌劇場

クチ

船頭の笠紐結ぶ田植舟 ゴムの木の皮薄く剥ぐそぞろ寒 ゴムの木の皮薄く剥ぐ緑雨かな ゴムの木に斧振りかむる杣の秋 肌脱の軍手に運ぶ丸太かな ・両耳の*1伏する牛より冷やしけり マンゴーの花ぞ垂れゆくみどりの夜 ▲滴れり地下壕の壁伝ひゆく 地下壕の壁伝ひ…

ホーチミン

▲マンゴーの花の散りゆくプールかな 春の芝校旗の影のはためきぬ ギロチンの刃の鋭角や番紅花 木耳や月の出を待つ旅をはり ・ポインセチア高き星より瞬けり 鉄条網赤く錆び付く仏桑花 鉄条の赤く錆び付く仏桑花 鉄条の網の朱さよ仏桑花 鉄条の網の錆び付く仏…

チャンアン

うしろより古き舟歌昇天日 おふならの唄ひつつ採る蓴かな ・田草取*1おふなら峡に唄ひつつ 鴨の子の一羽潜るや他の子も 鴨の子の母が潜れば次々に 母を追ふ鴨の子どもの潜りけり 薔薇垣の婚礼終へし盛りかな 婚礼を了へて薔薇垣花盛り 気球より手を振る妻の…

ピラカンサ

ピラカンサ放火の前科ある女

酉の市

硝子吹く頬の膨らみ冬の朝 硝子吹く頬の膨らみ冬旱

落葉・冬紅葉・銀杏落葉・山茶花・ポインセチア・實・新生姜・寒牡丹

懐胎の妻の手曳きぬ寒牡丹 かえるでの上に朴の葉落ちにけり かへるでの上に朴の葉落ちゆけり 白葱や包丁の刃の薄ぐもり 一葉づつ銀杏落葉の径なしぬ 一葉づつ銀杏落葉の径となる 一葉づつ銀杏の落葉敷く小径 一葉づつ銀杏落葉の占むる径 一葉づつ銀杏落葉の…

寒晴やシャツ拡げ干す朝まだき

破魔弓・破魔矢

破魔弓や桐の木目の名前旗 金箔の鏃に押せる破魔矢かな 破魔弓の絃張り詰むる細さかな

サイレンの音の近づく霜のこえ

逆上り繰り返す子や冬椿 逆上り繰り返す背や冬椿 朴落葉蝶の骸を覆ひけり

興禪寺

光輪にかざす柊挿しにけり 柊を挿すや光輪仰ぎつつ 黄落や手庇に見る那須五峰 相触れし音に紅葉の散りにけり 降り急ぐ落葉の音を聴きにけり 竹筒に挿す柊の甘雫 竹筒に柊挿せり薄月夜 竹筒に挿す柊の雫かな 繊月や木の葉散る音踏める音

登記簿の名に斜線引く黄落期 戸籍簿の斜線や十二月八日 戸籍簿の見当たらず三月十日 戸籍簿の太き斜線や終戦日 戸籍簿の斜線真太し敗戦日

根深汁・おしるこ・葱のグラタン・千両・万両

しぐるるや木匙に掬ふ汁粉餅 風花や木匙に掬ふ汁粉餅 幾千両幾万両と色づきぬ 千両の鴇色万両の柑子色 千両の丹色万両の柑子色 唇を焼き根深汁啜りけり 唇を焼きたる根深汁啜る 根深汁唇焼きて啜りけり 根深汁唇の端焼きにけり 根深汁下唇の焦がれけり 根深…

葱・柿

包丁に葱と葉葱と分かちけり 包丁に葱切り落とす速さかな 葱と葉を繋ぐみどりの淡さかな 葱と葉とつなぐ翠や刃を当つる 葱と葉を繋ぐさみどり切りにけり

零余子飯

冬萌や産衣にくるむ赤ん坊 雪洞を吹き消すをのこ宝船

角川書店 俳句 2017 11

手いっぱい 抜井諒一 もう草と呼べざる丈の夏野原 滝を見る人の大きな手振りかな 手花火をいたはるやうに屈みたる 団栗の二つで子の手いつぱいに ゲレンデを残して山のよそおへる 体より寒さ抜けゆくとき眠し 風花の止みてどこにも無かりけり 頸動 山本肯三 …

猪・芋

芋運ぶ音の高まる野州かな芋箱に芋の転がる音の無し